執筆者:水上 ゆかり
極寒の地シベリアに自生するカラマツに含有する「タキシフォリン」。この天然成分が、老化による病気や、COVID-19の治療・予防に役立つ可能性があると、世界の学者が熱い視線を注いでいます。東北大学の名教教授である木村修一先生と駒井三千夫先生に、このタキシフォリンの可能性について語っていただきました。

 

―お二人の関係と、主な研究内容を教えてください。

駒井:木村先生は師匠ともいえる先生です。私は大学4年生のとき、東北大学の研究室に初めて入ったわけですが、あの頃からすでに教授でいらっしゃいました。当時、木村先生は確か40代半ばでしたよね。

木村:そうですね。駒井先生は卒業論文を書くために、研究室に入ってきたわけです。

駒井:最初の研究は、細胞の寿命に関する研究でした。食事を腹八分目に抑える制限食と老化の関係性などを調べましたね。

木村:そう、「エイジング」を中心に研究したわけです。

駒井:木村研はもともと栄養学の研究室ですので、ビタミンの研究は、ビタミン発見者である鈴木梅太郎先生の学生だった初代の有山恒先生から今もずっと続いております。木村先生が3代目の教授として、私は5代目の教授として続けてきました。

木村:私は以前、水溶性ビタミンである「パントテン酸」の誘導体を作りました。それが「パントシン」という商品名で流通し、今では第一三共の主要な薬の一つになっています。

―お二人が注目されている成分「タキシフォリン」はどんな物質ですか?

木村:ロシアのシベリアで生まれ育ったカラマツに含まれる成分です。そしてタキシフォリンは、なぜか幹の下の方に集まっているんですよ。しかも雪解け前の春の季節のものに多く含まれる。そこに何か意味があるんじゃないかと言われているけど、よく分からない。シベリアのカラマツは、夏は30度以上、冬は-60度以下の環境でも平気で生えている生命力の強い木なんです。実は日本のカラマツにもタキシフォリンは含まれているのですが、有効成分を工業的に抽出する技術はロシアしか持っていません。

駒井:タキシフォリンは、天然のフラボノイドの一種です。実は、小豆などの食べ物にも少量は入っています。酸化を受けにくくすることによって、カラマツの木が極寒の地で寒さにも耐えて生息していけるのは、まさに植物の戦略だとも言えますよね。

木村:そう、とにかく「抗酸化力」がものすごく強いんです。タキシフォリンを他の成分と比べてみて分かったのですが、雲泥の差があります。ロシアでは、カラマツの木を煮出した汁を飲んで、体の機能を回復させるという使われ方を古くからしていたそうです。1960年頃にロシアの女性化学者が調べたところ、タキシフォリンは非常に抗酸化力の強い成分であるということがわかりました。タキシフォリン濃度を90~99%にまで高めた粉末にできるのは、ロシア独自の技術です。あちらでは、がんや糖尿病、循環器系といった疾患の治療薬としても利用されているぐらいです。

 

―タキシフォリンの研究に至った経緯を教えてください。

駒井:「フェオフォルバイド」という強力な酸化物質の酸化作用を最もよく防いだのが、タキシフォリンだったんです。木村先生は、フェオフォルバイドを日本で一番研究された先生なんじゃないですかね(笑)。ものすごい種類の数の物質を調べていましたよね。

木村:東北地方に「春のアワビを食べた猫は耳が落ちる」という言い伝えがありましてね。つまり春のアワビを食べた猫は耳が炎症してかぶれてしまい、搔き壊してしまうのです。一部の漁村でそう言われていました。僕が不思議に思ってそのメカニズムを調べてみたら、フェオフォルバイドという物質が原因だったのです。フェオフォルバイドは、鮑の肝に多く含まれ、その濃度が最も高くなるのが春だったのです。そしてフェオフォルバイドは、光に当たると非常に強力な活性酸素を発生させ、炎症を引き起こすのです。実際、春のアワビを食べて日光を浴びた人が、全身がただれたという症例もありました。私は、このフェオフォルバイドによる光過敏症を防ぐ成分がないかと、ありとあらゆる成分を検索しました。その中で、タキシフォリンの効果は圧倒的でした。「インド人参」や「アムラ」といった若返りに効果があると言われる成分と比べても、タキシフォリンはフェオフォルバイドの悪い働きを極端に抑えることが分かりました。

駒井:フェオフォルバイドは、人の赤血球を壊してしまうほど毒性の強い物質なんです。でも木村先生は逆転の発想で、それをがん細胞の目印にしてレーザー照射治療に応用する、というアイデアを思い付いた。そして抗がん剤についても研究され、その功績が認められて国際癌学会に招かれたこともありましたね。

木村:僕は、タキシフォリンとフェオフォルバイドの両方に関心がありました。それがうまく結びついた結果だと思っています。

 

―栄養学に精通されているお二人ですが、タキシフォリンと相性のよい成分はありますか?

木村:タキシフォリンは、大きな意味でのビタミンみたいなものだと思っていて、ビタミンCにも「酸化」を防ぐ働きがあります。例えば、ペットボトルのお茶の中にもビタミンCが微量に含まれているのですが、それと同じように、ロシアでは食品の中にタキシフォリンが入っています。それだけでなく、ビタミンCとタキシフォリンの組み合わせで薬も処方されています。つまり、タキシフォリンとビタミンCの相性は非常に良いんです。

駒井:さらに僕は、タキシフォリンとビタミンKやビオチンの組合せにも注目しています。もちろん、タキシフォリンだけでも抗糖化や抗老化、抗炎症効果は十分にあります。近年、炎症が老化を進めるということが研究で分かってきていて、ビタミンKやビオチンはとくに抗炎症作用が強いので、これらの成分もプラスして補給しようと考えています。作用点がそれぞれ違いますから、健康維持の多目的な用途で使えて相乗効果を発揮してくれると考えています。老化により発症する様々な生活習慣病を予防するサプリメントとして役立つと思います。まさにこれから、商品開発に着手するところです。

木村:美肌や美白効果も期待できますよ。

 

―サプリメントをご愛飲中のお二人が感じておられる効果を教えてください。

木村:私は15年ほど前から飲み続けていますが、風邪をひかなくなりましたね。

駒井:私は師匠に比べればまだまだ序の口ですが(笑)、2年ほど飲み続けています。以前は眼がショボショボして疲れやすかったんですが、今は眼が疲れにくくなったので、これはタキシフォリンの効果かもしれません。それから、体全体が疲れにくくなったようにも感じます。木村先生は今年(2021年)の7月で92歳になられますが、今でもジム通いや腕立て伏せなどを続けられていて、お元気でいらっしゃいますよね。

木村:そうですね。ただし、筋肉の鍛え過ぎは逆に活性酸素を出してしまいます。それを程よくタキシフォリンが抑えてくれている気がします。

 

―認知症にも、かなりの効果が期待できると伺いました。

木村:脳には神経細胞がものすごく多くあるわけですが、歳を取るにつれてその神経細胞がだめになっていき、認知症が起こりやすくなります。そのダメージの原因は、やはり活性酸素です。

駒井:タキシフォリンがもつ特徴の一つとして、アルツハイマー病の一因とされる「アミロイドβ」の抑制効果が挙げられます。脳の中に、神経や血管を傷つけるアミロイドβが溜まるのを、タキシフォリンが抑えてくれるんですね。さらにいうと、炎症性物質の産生や活性酸素レベルまでをも抑えることが分かっています。これについては国立循環器病研究センターや京都医療センターでの動物実験でかなり良い結果が出ていて、タキシフォリンによる脳機能改善作用が証明されています。国立循環器病研究センター脳神経内科部長の猪原匡史先生は、2017年に、この研究成果を発表されています。

木村:ロシアでは、ヒトの臨床試験も行われているんですよ。脳の血流が悪くなることで認知症が起こるケースがあるんですが、その患者がタキシフォリンを摂取したら改善が見られた。例えば、数字を短期記憶したり、こぶし握りを素早く繰り返したりする、簡単な認知症テストってあるじゃないですか。これを患者に21日間続けてもらったところ、タキシフォリンを摂取した人は、注意力や短期記憶、運動能力などが向上したんです。

駒井:さらに、タキシフォリンは眼にも良いという実験結果も出ています。7〜8年前、僕の研究室では白内障についての実験を行ったんですが、タキシフォリンを投与した動物の水晶体は白く濁らなかったんです。とくに糖尿病からくる網膜症や白内障といった眼の病気に対して、タキシフォリンは高い可能性を秘めているように感じます。

 

―木村先生はタキシフォリンをCOVID-19の予防や治療に利用することを提唱していらっしゃいますよね。

木村:僕は、タキシフォリンは効果があると思っているし、世界中の研究者たちからも「タキシフォリン」の名前をよく耳にします。インドの大学では、新型コロナウイルスの治療薬として有効な天然素材を探しました。その最終候補の中には、タキシフォリンの名前が入っていた。これは相当すごいことです。それからスイスの大学でも、約6億種の化合物の中からコンピューターで絞り込まれた12種類の中に、天然物として唯一タキシフォリンが入っていました。

駒井:世界中の学者が、いろんな方向性で天然物由来成分の中からCOVID-19に有効な成分を研究し、発表していますが、その中の一つにタキシフォリンが選ばれているんですよ。そういうことを勘案すると、タキシフォリンは信頼できる素材と言えましょう。

木村:タキシフォリンを摂取すれば感染を防ぐだけでなく細胞内でウイルスが増殖するのも防いでくれます。さらに、サイトカインストームという過剰な炎症も抑えてくれるんです。僕だけじゃなく、他の学者が書いた複数の論文でタキシフォリンがCOVID-19の感染予防や重症化を防ぐ可能性が示されています。

 

―最後に、タキシフォリンに今後期待したいことを教えてください。      

木村:生きている限り、体内の「酸化」は進んでしまいます。そして酸化することによって、慢性的な「炎症」が起こることで段々と私たちは歳を取るわけです。でもこの酸化を抑制し炎症を緩めることができれば、健康寿命は伸びる可能性があるんです。僕はいま、人間の遺伝子に近いと言われるゼブラフィッシュで実験を進めていますが、タキシフォリンを与えた実験群のほうが寿命は伸びています。

駒井:先にもお話ししたように、私たちはタキシフォリンを使ったサプリメントの開発段階にいるわけですが、実は師匠から「早く出しなさい」とつつかれていまして(笑)。それはなぜかというと、新型コロナウイルスが猛威を振るっているので、皆さんに早く使ってもらいたいという思いがあるからなんです。もう少し時間はかかりますが、いい加減なものは作れないし、サイエンスを大事にしてよいものを届けたい。木村先生も私も栄養学の領域で研究を続けてきましたので、日常的に摂取される食品の一つとしてタキシフォリンが認知され、広まっていくことを願っています。

 

 

Profile
東北大学名誉教授
木村修一(右)
東北大学農学部教授・農学部長、昭和女子大学教授、国際生命科学研究機構・理事長を経て、現在は東北大学及び昭和女子大学の名誉教授。2011年に加齢・栄養研究所を立ち上げ、6年間所長も務めた。著書に「現代人の栄養学」(中公新書)など。犬山康子著「血管と血流をきれいにするだけで糖尿病はグン!とよくなる」(総合科学出版)監修。

東北大学名誉教授
駒井三千夫(左)
東北大学農学部教授・農学部長を経て、2018年度から東北大学の名誉教授に。著書に「亜鉛の機能と健康」(建帛社)など。2021年4月2日、NHK総合「チコちゃんに叱られる!」に出演。現在、㈱東北アグリサイエンスイノベーション・代表取締役
この記事の取材協力・執筆者
取材協力
株式会社DHQ
タキシフォリン国内販売のパイオニア。
同社が取扱うタキシフォリン原料は、米国FDAの「GRAS」、欧州EFSAの「Novel Food and Novel Foods Ingredients」という2つの世界的な食品安全認証を取得しており、高い安全性が確認されている。
執筆者
水上 ゆかり
福岡出身、横浜在住。福岡の零細企業でフリーマガジン・タウン誌の編集者として4年間孤軍奮闘。ミュージシャンや俳優、経営者、学生などから多岐にわたるテーマの取材・撮影を行い、1年間は編集長も兼務。その後、オーガニック製品(食品・化粧品・雑貨)の企画職を経て、2017年にフリーのライター・編集者に。同年、アロマ検定1級を取得。化学物質に頼らない暮らしを日々実践中。
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