岡嶋先生は、医師であり研究者でもあると伺っています。これまでの学問的な研究とご経歴を教えてください。
私は2012年に開院した「名古屋Kクリニック」で、脱毛症の治療を行っていますが、もともとは血液学の研究者でした。血液凝固学が専門で、血液が固まるメカニズムを研究していました。「トロンビン」という酵素が血栓を作るのですが、この働きを阻害するのが「アンチトロンビン」というタンパク質です。アンチトロンビンには血流を増やす作用もあることが知られていたのですが、その詳しいメカニズムまでは解明されていませんでした。そこで調べてみたら、アンチトロンビンは痛みや痒みを感じる知覚神経を刺激して体内でインスリン様成長因子-1(以下:IGF-1)を増やし、その結果血流を増やすということが分かったのです。この事実が分かるまで、15年の年月がかかりましたね。
血液学の研究から、なぜ「毛髪内科」の道に進まれたのでしょうか。
このIGF-1に育毛効果があることは分かっていたので、知覚神経を刺激すればIGF-1が増え、髪の毛が生えてくるだろうと思ったのです。IGF-1は、人間の心身が健やかに成長するために欠かせない成長因子の一つです。このIGF-1を増やす代表的な物質が唐辛子などに含まれる「カプサイシン」で、その働きをさらに良くする大豆に含まれる「イソフラボン」との組み合わせが一番効率良くIGF-1を増やすということが分かったのです。そこでこの理論を応用して、脱毛症の治療を始めました。
体内でIGF-1が増えると、どのような効果や効能が得られますか。
IGF-1には、育毛効果はもちろんですが、たるみやシワを改善する肌のアンチエイジングの効果や認知機能・うつ症状の改善、それから免疫機能を正常化する働きもあります。他にも高血圧や高脂血症、糖代謝を改善する作用もあるので、IGF-1を増やす治療は、いわゆる生活習慣病の予防や改善にも役立ちます。私は血液学の研究成果から、カプサイシンとイソフラボンで知覚神経を刺激すれば育毛効果が発揮され、同時にさまざまな健康上のメリットが出てくるだろうと考えました。
薄毛が私たちの心身にもたらす影響を教えてください。
外見的な要因から、劣等感や情緒不安定性、自信の喪失、社会生活の質の低下などの問題が起こりやすい。また、男性型脱毛症(AGA)の人は心筋梗塞や糖尿病、前立腺肥大や前立腺がんなどの発症リスクが高くなると言われています。これは、IGF-1が低下して、糖や脂質の代謝の悪化や免疫力が落ちてしまうことに関係しています。特に脱毛症がある人では、男女問わず、新型コロナウイルス感染症に罹りやすく、重症化しやすいという傾向があります。これは昨年(2020年)、正式に発表されています。
これまで行われていた脱毛症の治療の問題点をどのように感じていらっしゃいますか。
今の現代医学は、根治ではなく、症状を取るだけを目的とした対症療法になっている気がします。人間を「鍋」に例えると、病気になった人間は、病気の原因である火で「鍋」が沸騰した状態で、知覚神経が刺激されて、痛みや熱や痒みといった症状が出ます。症状はつらいのですが、この状態は、体内で知覚神経が刺激されて、IGF-1が増えている状態なのです。ところが痛み止めや痒み止め、またステロイドなどの薬は、鍋の蓋のようなもので、病気の原因である火は消さずに、この鍋に無理やり蓋をすることになります。だから症状は治まるのですが、痛み止めや痒み止めは、知覚神経の働きを抑えるので、IGF-1が減ってしまい、強い副作用が出ますし、また、ステロイドは、IGF-1は減らしませんが、その効果が切れるとまた症状が悪化して、また、ステロイドを使うという悪循環に陥ります。この悪循環の過程で、長期のステロイド使用による副作用が出てきます。このような病気の状態で、知覚神経を刺激すると、症状は、一過性に強くなりますが、IGF-1が増えるので、病気の原因も改善してきます。漢方治療では、病気が良くなる前には、一過性に病気と同じ症状が強くでることがあるとされており、これは好転反応と呼ばれています。しかし、知覚神経を刺激する治療は病気の根本的な治療になると考えています。脱毛症の治療でも同じで、痛み止めやかゆみ止め、そしてステロイドは皮膚科での円形脱毛症の治療で勧められていますが、これらによる治療では、効果がないばかりか、痛み止めやかゆみ止めでは、IGF-1が減るために脱毛してしまい、また、ステロイドでは、注射で投与されると副作用のみが出てきます。
男性型脱毛症では、治療薬はありますが、進行を止める程度の効果しかなく、女性の薄毛(女性型脱毛症)には、いまだに有効な治療薬が見つかっていません。他のクリニックで治療をされた女性が、強い薬による副作用で体中にムダ毛が生えたり、目眩や動悸が辛かったりして治療を断念するケースも耳にします。そもそも、女性と男性では薄毛になるメカニズムが違うのですね。女性の薄毛は、IGF-1を増やす女性ホルモンの働きが悪くなることが原因です。当クリニックでは、先にお話ししたカプサイシンとイソフラボンに、ロシアのシベリア産カラマツから抽出された「タキシフォリン」を加えると、女性の薄毛が顕著に改善するというデータを得ています。
タキシフォリンはいつ頃から、どのような経緯で治療に取り入れられましたか。
タキシフォリンを知ったのは、タキシフォリンを輸入・販売しているDHQ社の社長と食品の展示会でお会いしたのがきっかけです。その時は、抗酸化作用や糖代謝の改善、血流増加作用、高脂血症改善などのタキシフォリンの代表的な特徴を教えていただきました。これらのタキシフォリンの作用は、IGF-1の効果と全て一致したので、タキシフォリンは、IGF-1を増やす可能性があると考えたのです。実際に試してみたところ、育毛効果が確認できたので、2016年から治療にタキシフォリンを取り入れるようになりました。
タキシフォリンを用いた治療の症例をいくつか教えてください。
1人目は、タキシフォリンのサプリメントだけで治療を行った男性型脱毛症の50代男性の例をご紹介します。タキシフォリンの摂取を始めてから、18日後、1カ月後と毛が太くなっているのが写真からも見て分かると思います。
実は、この方には3カ月後にタキシフォリンの摂取を止めてもらったんです。そうすると、太くなっていた毛が段々と細くなってきました。つまり、タキシフォリンが知覚神経を刺激してIGF-1を増やし、その結果髪の毛が太くなったと考えられます。
症例1)50代 男性 男性型脱毛症
タキシフォリン摂取前 | 摂取18日後 | 摂取1カ月後 |
2人目は、60代女性の患者様でした。この方は長い年月、頭頂部の薄毛に悩んでいたのですが、カプサイシンとイソフラボン、タキシフォリンを組み合わせたIGF-1を増やす治療で、わずか25日後には毛が太くなり、薄毛が一気に改善しました。これまで女性の薄毛は、カプサイシンとイソフラボンの組み合わせだけでは十分な効果は得られなかった。でも、タキシフォリンを加えるとなぜか急速に良くなるのです。
症例2)60代 女性 女性型脱毛症
カプサイシン+イソフラボン+タキシフォリン摂取前 | 摂取25日後 |
3人目の方は脱毛症の治療を1年10カ月ほど続けていましたが、劇的な改善が望めませんでした。そこでタキシフォリンを治療に加えてみたら、1カ月で髪の毛にツヤとコシが出てきて、髪質がものすごく向上したんです。
症例3)60代 女性 女性型脱毛症
治療前 | 治療から1年10カ月後 | タキシフォリン摂取1カ月後 |
IGF-1を増やす治療で、脱毛症以外に効果が見られた患者さんはいらっしゃいますか。
タキシフォリンもそうですが、知覚神経を刺激する成分を摂ると、頭皮のみならず、体中でIGF-1の産生が増えるので、脱毛症以外の病態も改善されることがあります。例えばアトピーが改善したり、ウイルスによる水いぼが治療3カ月後にかさぶたになってきれいに剥がれ落ちたりするケースがありました。 また、17年間治療しても治らなかった尋常性乾癬という皮膚の難病や、7年間治療して治らなった手の湿疹も、3カ月間のIGF-1を増やす治療で、脱毛症と一緒に改善しました。IGF-1には自己免疫を抑制する作用や抗アレルギー作用もありますから。他にも、IGF-1の女性ホルモンの働きを良くする作用が表れて、生殖能力が高まって不妊症が改善して妊娠された方もいらっしゃいました。
タキシフォリンは、新型コロナウイルスの予防や改善にも期待できますか。
もちろんです。IGF-1は免疫力を上げてくれるので、IGF-1が増えれば自然と免疫力が上がってコロナに罹りにくくなるし、罹っても症状が軽く済む可能性があります。IGF-1は、円形脱毛症の原因になっている自己免疫という異常な免疫を正常の免疫に戻す作用があるので、これまでの治療で治らなった円形脱毛症が、IGF-1を増やす治療で治りますし、また、免疫力が下がっている場合は高めるという作用を持っていますから、この治療は、ウイルス感染症などにも効果が期待できます。
岡嶋先生は、きのこの一種の「チャガ」の摂取も推奨していらっしゃいますね。
チャガに含まれている「βグルカン」や「ポリフェノール」が知覚神経を刺激することは、私の研究でわかったので、チャガがIGF-1を増やして、育毛効果を発揮することは簡単に予想できましたし、実際に、脱毛症治療では毛が太くなるなどのタキシフォリンと同じ育毛効果があらわれたのです。今はカプサイシンとイソフラボン、タキシフォリンとチャガの4種類のサプリメントを土台にして、必要があれば他の薬剤など、でさらにIGF-1を高める治療方法を実践しています。
薄毛を防ぐために、普段どんなことを心掛けたら良いですか。
IGF-1を増やす食べ物を積極的に摂っていただくことでしょうね。先日、ロサンゼルスに住んでいる男の子の円形脱毛症が治らないからと、遠隔診療をお願いされました。コロナの影響でサプリメントが送れないので、食事療法として、毎日茶さじ2杯の唐辛子と、豆腐半丁を継続的に食べるようにお願いしたんですね。現地でタキシフォリンのサプリメントは手に入ったそうなので、一緒に飲んでもらいました。そうしたら、1カ月後に痛んだ毛が抜け落ちるという好転反応が起きて、4カ月後には産毛が生えてきたんです。タキシフォリンと食事療法の組み合わせでも、育毛効果があることが証明されました。IGF-1を増やす食べ物は、本わさびや生姜、モズク、コーヒーなどさまざまなものに含まれています。
逆に注意した方がいいことを教えてください。
何らかの原因で、知覚神経が刺激されるとIGF-1は増えますが、同時に、痛みやかゆみの症状がでます。しかし、このような場合に痛み止めや痒み止めの薬を飲むと、IGF-1が減って毛が抜けてしまうんですね。私が実際に実験したところ、タキシフォリンを飲むと30分後には頭皮の血流が増えるのですが、風邪薬を予め飲んでおくと、頭皮の血流が減って、タキシフォリンを飲んでも血流が増えなくなります。私の治療では、知覚神経の働きを阻害するこれらの薬は、飲まないように患者さんに指導しています。
最後に「優遊自適」の読者にメッセージをお願いします。
重篤でない脱毛症や薄毛の予防・改善には、IGF-1を増やす食べ物を摂りながらタキシフォリンのサプリメントを摂取されるのがよいと思います。タキシフォリンはカラマツの木部から抽出される天然成分で、カラマツは厳しい環境でたくましく成長する植物なんですね。人間も同じで、病気や怪我で体が傷ついたとしても、自らの力で治ろうとする「治癒力」が働きます。この治癒力の本体が、IGF-1であろうと私は考えています。タキシフォリンは、カラマツとヒトで、その生命を育む作用を発揮していると考えられます。大事なことは、体内のIGF-1を増やして免疫力を高めること。そして、IGF-1を減らす薬をできるだけ使用しないことです。ぜひタキシフォリンを有効活用していただければと思います。