政府も民間企業も様々な形で、女性を含めた多様な人材の起業、スタートアップ企業の成長を支援しています。今回は、経済産業省や三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)のサポートのもと、幅広い分野で注目を集めて活躍している女性起業家の方々に、起業までの過程や成功の秘訣などについて、お話をお伺いします。

 

今回ご登場いただくのは、女性向けキャリアスクール「SHElikes(シーライクス)」を主要事業として手掛けているSHE株式会社 代表取締役/CEO・CCOの福田恵里さんです。MUFGからは、同社の担当を務める三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 投資銀行本部 コーポレート・ファイナンス・グループの遠山和晃さん、株式会社三菱UFJ銀行 スタートアップ営業部の秋山隆英さんの2名にお集まりいただき、起業に込めた福田さんの熱い想いや背景から、MUFGとの関係性、MUFGから見た同社の魅力についてなど、幅広くお話しいただきました。

SHE株式会社 代表取締役/CEO・CCO
福田恵里さん

 

「女性が参画できないのは機会損失になる」と課題意識を感じた

--まずは、福田さんが起業しようと思ったきっかけをお聞かせください。

福田さん 学生時代にサンフランシスコへ留学していたのですが、現地では起業を志す自分と同世代の方にお会いする機会がたくさんありました。その際「自分も何かサービスを作れるようになりたい」と考えるようになり、プログラミングを学び始めたのが最初のきっかけです。

遠山さん もともとITビジネスやプログラミングに興味があったんですか。

福田さん いえ、それまでは「IT」という言葉を聞いたこともないくらいでした。(笑) 様々なIT系の勉強会に参加する中で度々目の当たりにしたのが、男性50人の中に女性は自分1人だけという状況。そのうちに「これからインターネットでプロダクトを作るスキルは男女ともに必要不可欠になるのに、女性が参画できないのは機会損失ではないか」と課題意識を感じるようになりました。

秋山さん では、最初の一歩はどんなことから取り組まれたのでしょうか。

福田さん まず同世代の女性たちは、Web系の職種に何があるのかを理解していない方が多く、親近感を持ってもらう必要があるなと。そこで、教材に動物のキャラクターを使ったり、開発の合間にヨガやスイーツを食べながら女子会をしたり、直感的にワクワクできる世界観を構築するところから始めました。
その後、テストマーケティングとして集客用ぺージを作成すると、50人の枠が1時間で完売。当時大学生で何も持っていなかった自分としては衝撃的な体験でした。

秋山さん それはすごいですね。ただ、そのまま学生で起業することなく、一度会社に入られてから起業されたのはなぜですか?

福田さん 当時は学生で起業する勇気がなかったですし、まずはビジネスのイロハを学びたかったので、「起業家輩出企業」と呼ばれている会社に入りました。その後しばらくは個人のサイドプロジェクトと二足のわらじでやっていましたが、2~3年経った時に、社内にいた女性と2人で共同創業することになりました。

遠山さん そこからどのようにして、今のように事業を拡大されていったのでしょうか。

福田さん 何千人もの女性たちに教えているうちに気が付いたのは、「プログラマーになりたい」や「ウェブデザイナーになりたい」といったように、自分のなりたい姿を明確に決めてから来られる方が少ないということ。それよりも「ライトに試してみたい」とか「やりたいことは分からないけれど、手に職をつけたい」といった声が多く聞かれました。
であれば、色んな職種のスキルを提供するほうが自分のキャリアも描けて価値があるのではないかなと。そこからだんだんサービスを広げていきました。

 

子育て中のユーザーから掛けられた言葉が、
さらなる成長の転機になる。

--転機となるような出来事はありましたか?

福田さん オフラインの講座をオンライン化したことです。青山に拠点を構えた後、銀座にも新しく拠点をオープンすることになったので、お披露目パーティーを兼ねてユーザーさんとの交流会を開きました。その時にママさん3人から「SHEはミレニアル世代にママを含めていないんですか?それで女性たち全員を応援すると言えますか?」と意見をいただきました。

秋山さん どういう理由から、そういった意見が挙がったのでしょうか。

福田さん 当時は受講者の多くが働く女性たちだったので、必然的に平日の仕事が終わった後や土日中心にレッスンを行っていました。ただ、育児をしている方々からすると、逆にそこが一番忙しい時間帯だったんですよね。女性たちのためにキャリアのインフラを作ろうとしていたはずが、全ての女性が好きな時間に好きなスタイルで学びを受けられていない。そのことに衝撃を受けて、オンライン化に切り替えることにしました。
そうすることで、お母さんだけでなく、地方や海外に暮らす女性にも対象が広がったので、そこで事業の成長も大きく変わったと感じています。それがコロナ禍のちょうど1年前のことでした。

遠山さん そういう時期を経て、私たちMUFGと出会ったのが1年半ほど前のことでしたよね。数年後の新規上場をめざすにあたって、支援するアドバイザーを選定される際にお声掛けいただきました。複数の会社から提案を受けていらっしゃったのでどこがいいのか悩まれたと思いますが、「私たちは御社をずっとサポートします!」と言い続けて、最終お選びいただけて大変うれしかったです。ちなみに、何が決め手となったのか、教えていただけますか?

福田さん 最後は、やっぱり人ですね。バイブスというか、本当に心と心が通じ合っていると感じられたのがMUFGだったからです。これから長い付き合いになる相手だけにしっかりと見極めたいと思って、何回も打ち合わせをする機会を設けていただきましたが、お話を重ねれば重ねるほど、皆さんの覚悟が伝わってきました。MUFGはたくさんのクライアントをお持ちなので、「ワン‐オブ‐ゼム」になるだろうと想像していたのですが、「1対1で関係を築きたい」と言ってくださったところも大きかったです。

遠山さん 最終決定のお電話をいただいた時は、たまたま上司と別件の話をしていましたが、喜びのあまり信じられないほど大きな声を出してしまいました。(笑) 実は、ダメかなと思っていたので、うれしかったです。

 

 

最後の最後、MUFGを選んだのは、
同じ船に乗る仲間として思いを共有できたこと。

福田さん 正直に言うと、テクニカルな面で言えばMUFGよりも優れた部分のある会社はありました。でも、最終的には「この人たちと一緒に夢を叶えられるかどうか」だったかなと思います。担当者の方だけでなく、チームの方も役員の方も含めて、全員を大好きになることってなかなかないですから。すごく悩んでいたので、最後にもう一度だけ会って決めようと考えていた時に、チームのみなさんから手書きの誓約書のようなものをいただいたこともありましたよね。

遠山さん いやいや、そんな血判状みたいなものではありませんよ。(笑) ただSHEさんに関わるチーム全員で思いを伝えたかっただけです。こうした密なやりとりをさせていただいたこともあって、強い絆があると勝手に思っています。

福田さん 衝撃的ではありましたが、私としてはあれが最終的な決め手でしたね。利害関係というよりも、同じ船に乗る仲間として一番信頼できると感じられました。

--どうしても福田さんと一緒にやっていきたいと思われた理由やお二人から見た魅力についても、教えてください。

遠山さん まずは「女性のキャリアを支援したい」というビジョンが明確であるということ。そして、その福田社長の思いや価値観を社内のみなさんにもきちんと共有したうえで、ビジョンの実現へと向かっているのが素晴らしいところだと感じています。担当者と話をした後に社長に提案したら全然違いましたということはよくありますが、SHEさんの場合は、どなたと話をしても齟齬(そご)がないので、我々のモチベーションも高くなります。

秋山さん そうですね。あと、SHEさんのHPにも「ジャンヌ・ダルク」という記載がありますが、福田さんはまさにジャンヌ・ダルクのように社会を変えていく方だと思っています。
「イノベーションリーダーズサミット(ILS)」という大企業とスタートアップをつなぐイベントに推薦させていただいた際も、引き込まれるようなピッチを披露されていて、社内でも話題になったほど。やり遂げたいことが明確にあり、それを形として表現できているのはすごいことだと実感しています。こうしたことを継続するうえで、意識にされていることはありますか?

 

大事にしているのは、全員がギバーになれる球体型のコミュニティ

福田さん 会社のビジョンに「一人一人が自分にしかない価値を発揮し、熱狂して生きる世の中を創る」というのがありますが、これは創業する前からずっと変わらず掲げているものです。それを実現するために私たちが大事にしているのは、球体型のコミュニティ。通常だと情報を求める人たちがインフルエンサーのもとにピラミッド型のように付くことが多いですが、私たちの場合は講師も生徒も関係なく、全員がギバーになります。そのなかで自己肯定感を高めながら、幸せの総和を大きくできたらいいなと。

秋山さん 創業前からすでにビジョンがあったということですが、思い付いたきっかけなどもあったのでしょうか。

福田さん 私は滋賀県の出身ですが、地方にいると出る杭は打たれるので、人と違うことをすると「みんなと同じであれ!」と圧力をかけられることがよくありました。でも、東京に出て働いていたら「個性を出せ!」と逆のことを言われる。この様な社会のいびつさにずっと違和感を抱いていました。
実際、何千人もの女性たちと話をしてみたら、同じような経験をしていた方がほとんど。自分に自信をなくして、やりたいことを発信できなくなっている人ばかりでした。そういったこともあって、「自分にしかない価値を大事にしながら、私が私で良かったと思って生きていける仕組みを作りたい」と考えるようになりました。

遠山さん だからSHEさんでは、スキルを身に付けて終わりではなく、生き方まで変えることができ、さらに喜びを感じられるようになっているんですね。

福田さん まさにその通りです。スキル獲得に目が行きがちですが、あくまでもこれは部分的なこと。私たちが一番提供したいのは本質的な価値であり、生き方の変革です。

遠山さん それを一緒に実現できるように、我々も会社の体制を整え、上場に向けての支援をしっかりとさせていただきながら伴走できたらと考えています。

秋山さん 銀行としても、資金周りのアドバイスやビジネスマッチングなどのサポートをさせていただいていますが、借り入れや資金決済だけでなく、MUFGグループのハブとしての機能を活かして各社のソリューションを適切にご提供・伴走させて頂ければと考えています。

 

一度は、起業を経験してほしい。
そのプロセスが、きっと人生の財産になります。

--では、今後の展望や挑戦したいことはありますか?

福田さん まずはSHElikesを日本でナンバーワンの女性のキャリアプラットフォームにしたいです。ただ、女性が育児や介護でキャリアを諦めてしまうとか、非正規雇用の大半を女性が占めている問題というのは、全ての国において共通する課題。だからこそ、解決策を提供できる市場を日本だけにとどめる必要はないと考えています。
今年の1月には経済産業省が行っている海外派遣プログラム「J-StarX」の女性起業家コースに応募してアメリカのシリコンバレーに行ってきましたが、そこでもっとグローバルにやっていくべきだと痛感しました。ドメインの展開とグローバル化は、向こう数年でやっていきたいところです。

秋山さん グローバルネットワークは我々の強みでもあるので、海外に行かれる際はしっかりとサポートしたいと考えています。

遠山さん あとは、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)の観点でも様々な取り組みをされていますよね?

福田さん もともとは女性が9割の会社でしたが、3年ほど前から男女比を5:5にするという目標を掲げており、今は男性が3割ほどになりました。全世界が抱えている問題なのに、それを女性だけで解決するというのはおかしいなと。男女問わず誰もが当事者意識を持ちながら、一人ひとりが自分の価値を活かして最大限のパフォーマンスができる環境にするのが本当の意味でのDEIだと考えています。

--最後に、起業をめざしている方々や働く女性たちに向けてメッセージをお願いします。

福田さん 全ての方に伝えたいことですが、人生で1度は起業した方が良いと思っています。今振り返ると、会社員時代の私は、視座が低くて視野が狭かったので、本当にポンコツでした。(笑)でも、立場が人を作るように、全てが自分の責任になったことで、価値観が広がっていくのを感じられたのです。
全ての起業がユニコーン企業やグローバルをめざすべきとは言いませんが、自分のアイデアを形にし、その付加価値を誰かに還元するような営みは誰もが経験したほうが良いのではないかなと。起業を通して経験した一通りのプロセスは、私にとって人生の財産となっているので、ぜひ皆さんにも知っていただきたいです。

 

今回、登場いただいた福田さんも参加されたのが、経済産業省が主催する起業家育成・海外派遣プログラム「J-StarX」。世界を舞台に活躍する起業家輩出に向け、志高い挑戦者に、世界のトッププレイヤーと繋がり、学ぶ機会を提供しチャレンジを後押しするプログラムです。

J-StarXを担当する経済産業省・新規事業創造推進室からのコメントは以下の通りです。

「J-StarXは、経済産業省主催の起業家等の海外派遣プログラムです。従来より実施していた「始動 Next Innovator」を抜本拡充し、2023年度から開始された本プログラムでは、初めて女性起業家コースも実施され、SHE社の福田さんにもこちらのコースにご参加いただいています。経産省としては引き続き、日本から世界を舞台に活躍できる起業家の輩出に向けて様々な機会を提供していきたいと考えております。プログラムの詳細については、動画やレポートでの情報発信をおこなっておりますので、ぜひご覧ください。」

MOVIE OF J-STARX
https://j-starx.jp/movies/