看護師として長年やってこられたキャリアを活かし、現在では看護職のキャリアサポートをはじめ幅広い活動を行っている大島敏子さんに、同じく看護師であり経営者でもある高丸慶さんがインタビューを行いました。後編では大島さんの考える人生における大切なものについてお届けします。

看護師の仕事を通じて得たもの

高丸:大島さんが思う看護師の仕事の素晴らしさはどういう点にあるのでしょうか?

大島:現場で働くことは生活の違う患者さんと接することなので、その人の背景や大事にしている価値観を知ることで、看護師自身の人生が広がっていく点にあると感じています。人間の多様性を、こんなにも身近に感じられる職業は他には余りないと思います。

高丸:看護師の仕事を通じて大島さん自身に何か変化はありましたか?

大島:自分の性格が変わったと感じています。やはり以前よりも人の話が聞けるようになり価値観も広がりました。もしこの仕事をしていなければ、どんな人生を歩んでいたんだろうかと思うぐらいです。

高丸:本当に素晴らしい仕事だと思います。看護師の仕事をする上で大島さんが大切にしていることはありますか?

大島:看護をさせていただいているという気持ちをとても大事にしています。1人1人の歴史を汲み取りながら、その人が受けたいと思っている医療、今後の生き方・価値観にに寄り添っていくことが看護の仕事だと思います。

高丸:日本以外の国では看護師の制度はどのようになっていますか?

大島:アメリカではナースプラクティショナーといって、一定レベルの診断や治療など日本ではできないことを行える資格があります。日本では聖路加国際大学や大分県立看護科学大学などにおいてナースプラクティショナーの教育が始まっていますし、来年4月からは、国際医療福祉大大学院でも行います。

高丸:日本でもそうした方々が活躍できる場があると、医師や患者さんにとってもプラスになりますね。

大島:医師の働き方改革が進んでいき、タスクシェアとして医師の仕事が看護師の方にどんどんくるようになりました。より良い医療を行うためには、看護師がもっと医師をサポートし、これまでに以上の力を発揮することができるようになれば、患者さんを苦痛から早く解放することができるので、ナースプラクティショナーを育成する制度を構築していきたいですね。

高丸:大島さんがセカンドキャリアを実際に経験されてみて、何か感じていることや現役の方に伝えたいことなどがあれば教えてください。

大島:一番大きいのは経済的な安定だと思います。大切なのは自分が80歳になったらどういう生活をしたいのかを思い描くことです。その上で、今現役でいる間に何をなすべきかを考えてほしいですね。

高丸:大島さんご自身はどんなことをされてきたのでしょうか?

大島:わたしはこれまで自分に対してたくさんの投資をしてきました。研修に行ったり、講演に行ったり会いに行ったり、本を読んだりといった時間を持ってきました。ですので、今はそのお返しをいただいていると思っています。看護職にとって無駄な体験は、一つもありません。すべてが必然です。

現役時代からの準備が大切

高丸:若いうちにこれはやっておいた方がいいよというアドバイスはありますか?

大島:やはりお金が大事だと思います。看護師は何歳になっても仕事ができるという前提があるとしても、退職してから年金をもらうまでの間と、年金だけの生活になってからという二つのタイムラインにおいて、どういう生活を送るかを現役時代のときから考えておく必要があると思います。看護職というと白衣の天使と言われることが多く、お金のことについて言うのは好ましくないという風潮がありますが、やはりお金は大事ですし邪魔になりません。

高丸:お金の基盤があるからこそしっかり働きそして遊べますよね。

大島:2022年度の平均寿命は男性が81.47歳で、女性が87.57歳です。女性は平均寿命から考えると、65歳で定年した後に23年生きるという計算になります。ですので働いてるときから80歳までの計画をしっかりと立ててほしいです。わたしは58歳から株を始め、今は積み立てNISAも行っていて、相続を見越しつつ運用しています。特に元気なうちに遺言なども準備しておくべきだと考えています。横須賀のタウンニュースで知った自分史ノートをフリージア・ナースの会員に配布し、自分史の作成を勧めています。自分を振り返り記録に残し、母が看護師としてどう貯めたかと生きたかを子どもたちに伝えたいと思っています。 

高丸:運用に関しては無頓着な方も多いのではないでしょうか。今はSNSが発達してきたこともあり、看護師は狙われやすいなと感じています。

大島:世の中にはお金を上手に貯めるいろんな仕組みがあるので学んでほしいですね。もちろん中には怪しいものもありますので見極める目を持っていただきたいです。退職金をどこに預けるかといった看護師向けの講座があってもいいような気がします。お金のことに関しては、しっかり予定を組んでいく必要がありますね。

高丸:大島さんからマネーリテラシーを教わりたいです。昔からお金に関する意識は高かったのでしょうか?

大島:実はわたしは経済学部出身で、どうして看護師の給料は安いのか、どうして看護師の数は増えないのか、といったことを考えながら仕事をしてきました。ありがたいことにコロナ禍においては、危険手当や慰労金を出していただきましたが、こういった処遇の改善を受けられたのは、134万人いる看護職のうちの約半数にとどまります。今後も看護師として適正に評価してもらうということを続けてしていかなければならないと感じています。

高丸:お金以外でも大事なものはありますか?

大島:やはり仲間が大事だと思います。日本看護連盟・協会の同志を始め友達はもちろん、年齢の違う仕事仲間や現役の人たちとも話をしてほしいですね。フリージア・ナースの会には賛助会員という55歳以下の方たちもいらっしゃいます。現場のケースには様々な視点があり、わたしたちの若い頃は患者さんの様子を詳細に書き記すことができましたが、今は電子カルテにシンプルに入力されるようになっているようです。そういったケースについても実際に共有し合える仲間がいることは大切ですし、とても幸せなことだと思います。また、中学校から仲の良い同級生が6人ほどいて、コロナ前は月に1度のペースで食事をしていました。そうすることでわたしは一般の主婦の方の感覚について知ることができますし、彼女たちにとっては病気や介護について知ることができるので、お互いに助かっています。

高丸:最後に読者のみなさんに何か一言お願いできますか?

大島:WHOの健康の定義の中で出てきたウェルビーイングという言葉は、心身ともに満たされた健康な状態という意味です。今の幸せな状態を維持していくことを心がけながら仕事をしていただきたいです。笑っているから幸せなのか、幸せだから笑うのか、どちらが正解かというと人間の体は笑っているから幸せになるんですよ。自分自身のセルフプロデュースをしながら、より幸せな状態を作り出すことに意識を持ってほしいです。もちろんしんどいことも必ず起きます。そういった状況になっても人間万事塞翁が馬です。そこから何かが得られるかもしれませんし、新たな出会いがあるかもしれません。そうやって困難を乗り越えていくことで輝かしい人生に繋がっていくのだと思います。

高丸:大島さん本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

大島敏子さん

横浜市立港湾病院入職。国家公務員共済組合連合会・横須賀共済病院で師長に就任。横須賀北部共済病院転勤・看護部長に就任。その間、関東学院大学 経済学部経済学科Ⅱ部卒業
2005~2011年 神戸大学医学部附属病院副病院長・看護部長・臨床教授

2011~2013年 神戸大学医学部附属病院、非常勤講師・医学研究員

2012年~社会福祉法人あおぞら福祉会 理事

2015~2018年 地方独立行政法人 広島市立病院機構 看護総合アドバイザー

2014年~ NPO法人看護職キャリアサポート顧問

2015年~ フリージア・ナースの会会長就任

2019年~ 豊富町健康支援大使就任

2019~2022年 日本看護連盟会長就任

高丸慶さん

エンディングコーチ。看護師、保健師、居宅介護支援専門員。株式会社ホスピタリティ・ワン代表取締役。1982年東京都生まれ。慶應義塾大学看護医療学部卒業。同大学院健康マネジメント研究科博士課程単位取得退学。2008年より株式会社ホスピタリティ・ワン代表取締役に就任。余命3か月の末期がん患者の看取りに特化した訪問看護サービスを開始。一般社団法人訪問看護支援協会代表理事、株式会社おくりびとアカデミー校長