看護師として長年やってこられたキャリアを活かし、現在では看護職のキャリアサポートをはじめ幅広い活動を行っている大島敏子さんに、同じく看護師であり経営者でもある高丸慶さんがインタビューを行いました。前編では大島さんの現在の活動についてお届けします。

看護師が持っているスキルを社会へ還元したい

高丸:本日は大島さんが取り組まれている活動についてたくさんお話をお伺いできればと思います。

大島:その前に感謝の言葉を述べさせてください。この3年間、わたしたち看護職が国民のみなさまからたくさんのご支援を受けてきたことに対して心より御礼申し上げます。看護職はコロナ禍を使命感と強い意志で乗り切ってきました。その中でブルーインパルスが飛んだり、金曜日の昼休みに拍手を送ってくださる企業があったりなど、様々な取り組みについてありがたく思っています。

高丸:その一方で、厳しい環境にあった方もいらっしゃいますよね。

大島:看護職ということで、コンビニで商品を売ってもらえなかったり、保育園で子どもを預かってもらえなかったり、様々な誹謗中傷とも闘いながらやってこられた人もいます。ようやく制限が解除されましたが、国民のみなさまには今まで通りの手洗いの励行やマスクの着用、密にならない会食やワクチン接種など可能な限りお願いできればと思います。

高丸:本当に長い3年間でしたね。大島さんは看護師を退職後、様々な活動をされているそうですが、そこにはどんな思いがあるのでしょうか?

大島:看護職が持っている知識や技術は一般の人にはないものなので、このスキルをもっと社会に生かすべきだという思いがあります。そしてわたしたちは後輩のために何を残せるだろうかと考えるようになりました。看護の仕事でみんなが正当な評価を受けられるようになることがこれからの課題になります。

高丸:現在のお仕事をするに至った経緯を教えてください。

大島:きっかけは、元部下の濱田安岐子さんと偶然再会したことです。わたしが横浜の百貨店のエスカレーターで上っていたとき、濱田さんが上から降りてきてすれ違ったんですよ。

高丸:そんなドラマみたいな偶然の再会があるんですね。

大島:当時は本当にびっくりしました。そうして再会した濱田さんから「わたしたち看護管理者が持っているスキルは素晴らしいので、何か違う形のことをやりませんか?特に55歳以上の看護師や看護教員が持っているスキルを社会に還元することも含めて進めていきませんか?」というお話をいただいて、フリージア・ナースの会を作りました。

高丸:フリージア・ナースの会ではどのようなことをしているのでしょうか?

大島:フリージア・ナースの会では、四つの事業を打ち立てています。

まず一つ目が、トップリーダーサロンです。コロナという誰も経験したことのない状況下で一番疲れているのは、手探りのなか仕事をしてきた看護師長たちです。看護の領域では、看護部長の下に副部長がいて、そして師長にそれぞれの業務を落としているので、1人の師長の仕事量は必然的に増大していきす。師長たちのつらい気持ちを聞いてあげるだけでも楽になってもらえるかもしれないということでスタートしました。

二つ目はキャリアコンサルタントの育成です。看護職のキャリアをしっかりと育てていくためには、やはりそばにいる人たちがコンサルをできるようになることが大切です。そこでキャリアコンサルタントを育てるための講座を作ろうというプロジェクトが、看護学部の大学の先生を中心に動いています。

三つ目はタッチングの技術習得です。わたしたちが行っているタッチングはただ体に触るだけです。看護の”看”は手と目という字が用いられていますが、1時間半ぐらいかけて全身を触っていくと不思議と体が生き返ります。看護職がこの技術を持てるようになれば、患者さんをもっと楽にしてあげることができます。みなさんの状態が良くなれば、看護師の満足度も上がるので、こういった良い循環を作っていきたいですね。

最後に、四つ目は仕事付き高齢者住宅のあり方です。看護の仕事をしている人の中には、お一人様で将来のことをとても心配している人たちがいます。そこで現在、働きながら住める場所を作るために、理念やビジョンを話し合いながら模索している状況です。物件などのご紹介もありましたので、みんなで本当にいいものを造っていきたいです。

高丸:仕事に関することから住むところまで、これが達成できれば看護職のみなさんの生き方への不安が軽減されますね。

大島:少なくとも97歳までは、ライセンスがあるまでは働くことができます。このライセンスを使い切ることがわたしにとっての一番の目標です。

高丸:わたしも生涯現役を目指して頑張っていきたいです。

オンもオフも過ごし方が大切

高丸:これは現役で働いている方にも言えますが、仕事を充実させるためにはオフも充実させることが大切だと思います。大島さんはオフに何をされているのですか?

大島:やはり働くだけじゃつまらないですよね。わたしはクルーズ船に乗るのが趣味なんです。ちょうどクルーズ船から下船した翌日にこの取材のオファーをいただいて、とてもタイミングが良かったのを覚えています。

高丸:クルーズ船!優雅ですね。

大島:わたしたち夫婦の金婚式を兼ねて家族みんなで行ったので、それぞれがそれぞれの方法で楽しんでいましたね。毎日様々なプログラムがあって飽きませんし、荷物を持たずに各地を観光できる点もおすすめです。

高丸:大島さんのこのような姿を知ったら、わたしもそうなりたいという人はたくさん出てくると思います。看護師は意外と遊び方を知らなかったり、遊んではいけないと思ったりしている人が多いのではないでしょうか。オンとオフを区切った方がメンタル的にもいいのは分かっていても、お休みの日でもつい患者さんのことを考えてしまったりする人もいます。オフへの切り替えについて悩んでいる人は大島さんのような先輩たちが遊んでいることをもっと知って、わたしも遊んでいいんだと思ってほしいですね。

大島:わたしが神戸大学にいたときに実施したのは、誕生日休暇を3日間取ってもらうことと、1週間以上の休みを年に2回取ることで、これらを年間カレンダーに組み込んで実施していました。国の働き方改革は徐々に進んできましたが、やはり法整備は大事です。日本看護連盟として看護職の声を届けるために、法制度をつくる議員を国会に送り出すことも大事な役割だと思っています。

高丸:大島さんは現役の頃からオンもオフも楽しむスタイルだったのでしょうか?

大島:いえ、看護管理者は休みが取れませんので、行きたくても行けなかったというのが現実です。クルーズは最近になってからですね。

高丸:クルーズ船では一期一会の出会いもありそうですよね。

大島:クルーズで同じテーブルになったご夫婦の奥様が、済州島を観光しているときに転倒し骨折してしまったことがあります。その話を聞いて次の寄港地で三角巾やカルシウム剤など必要なものを購入してお渡ししました。クルーズが終わってからも連絡を取り合っていて、先日「あなたがしてくれたことが一番効果的だったわ」という電話をいただきました。やはりわたしたち看護職は、何らかの形で誰かに対してプラスの行動ができるんだなと改めて感じました。

高丸:看護の知識を持った方が退職後それを活かせていないとしたら、本当にもったいないですよね。

 

後編に続きます。

 

大島敏子さん

横浜市立港湾病院入職。国家公務員共済組合連合会・横須賀共済病院で師長に就任。横須賀北部共済病院転勤・看護部長に就任。その間、関東学院大学 経済学部経済学科Ⅱ部卒業
2005~2011年 神戸大学医学部附属病院副病院長・看護部長・臨床教授

2011~2013年 神戸大学医学部附属病院、非常勤講師・医学研究員

2012年~社会福祉法人あおぞら福祉会 理事

2015~2018年 地方独立行政法人 広島市立病院機構 看護総合アドバイザー

2014年~ NPO法人看護職キャリアサポート顧問

2015年~ フリージア・ナースの会会長就任

2019年 豊富町健康支援大使就任

2019年 日本看護連盟会長就任

高丸慶さん

エンディングコーチ。看護師、保健師、居宅介護支援専門員。株式会社ホスピタリティ・ワン代表取締役。1982年東京都生まれ。慶應義塾大学看護医療学部卒業。同大学院健康マネジメント研究科博士課程単位取得退学。2008年より株式会社ホスピタリティ・ワン代表取締役に就任。余命3か月の末期がん患者の看取りに特化した訪問看護サービスを開始。一般社団法人訪問看護支援協会代表理事、株式会社おくりびとアカデミー校長