映画『ぬくもりの内側』× 三菱UFJ信託銀行【特別対談】

身寄りのない人を受け入れる南房総のホスピスを舞台に、過酷な人生を生き抜いてそこに行き着き、善意の人々の愛に包まれながら最期を迎える住人たちの姿を描いた映画『ぬくもりの内側』。劇場公開の前から各地での上映会などを通して、感動の輪が広がっています。この映画に出演されている女優の音無美紀子さんと、MUFG相続研究所の所長を務める小谷亨一が、映画を通して考えた理想の人生の終わり方や、相続について語り合いました。

人生の最期に寄り添ってくれる人がいることの大切さ、
信託銀行の果たす役割とは?

小谷:この映画を拝見して痛感したのが、人に頼ることの大切さです。相続などの準備では、孤軍奮闘していらっしゃる方が大勢いらっしゃいます。お子さんや配偶者の方に相談することもできると思いますが、皆さん、一人で悩みを抱え込んでしまうことが多いんですね。身内に気を遣っているのでしょう。このような場合、私どものような外部の専門家をうまく活用していただくことで、スムーズにいくケースもあるわけですが、こちらもなかなか……。その点、『ぬくもりの内側』では、第三者のサポートを受けることで、大切な人に思いを伝えることが大変うまくいっています。舞台となるホスピス・ほほえみの里で最期を迎える林けい子さん役のオファーを受けたとき、音無さんがご出演を決めた理由はどんなところにあったのでしょうか。

音無:私の場合は何より、白石美帆さん演じる主人公の榊原美穂さんの「一人一人の人生を美しく全うさせてあげたい」という熱い思いに共感したことが大きかったように思います。私自身も、自分の身内はもちろん、自分が関わった人たち皆に対して、美穂のように最期まで寄り添い、見送ってあげたいという気持ちが強いんですね。そもそも、「自分の人生には一片の悔いもない」と満ち足りて死んでいく人など、いないと思うんです。皆どこかに悔いを残していて、「私の人生、あそこで間違ったんだ」などといろいろ考えながら最期を迎えるのではないでしょうか。それでも、願わくは人生の最期に寄り添ってくれる人たちがいて、その人たちから大きな愛をもらって「ああ私、幸せだった」と死んでいけたらうれしい。この映画にはそういう姿が描かれていたので、けい子さんの役を演じさせていただいて本当に良かったなと思っています。

小谷:素敵なお話ですね。誰かに寄り添うという意味では、私どもの仕事でも共通している部分があると思います。資産承継のお手伝いをする仕事では、準備が必要とわかっていても進まないお客さま、どうしたらいいのか不安になっているお客さま、などさまざまな方がいらっしゃいます。私どもはまず、お客さまからじっくりお話を伺って、その上でお客さまのお考えに沿ったご提案を差し上げることが大変重要だと考えています。その意味では、映画の中の美穂さんの少しでもその方のお役に立てるようにという寄り添い方こそ、私どもが目指すところでもあります。相続という業務は、その方の人生をサポートすることが第一義ですから、お客さまにとって何が一番なのかを考えていく必要がありますし、寄り添うことの大切さは常に意識しています。

音無:私、周りの人には「100歳まで生きますから!」と言っているんですが、それは、自分でご飯を食べられるとか、トイレに行けるとか、要は自分の足で立てることが前提です。自分の意思に関係なく、意識がないのに生かされているような状態になってまで生きていたいとは思いません。ですから、もしほほえみの里のような施設が本当にあるのなら、私もそういうところで死にたいと考えたりもしましたね。

心を託したい

小谷:音無さんとはちょっと見方が違うかもしれないのですが、私も、これからはほほえみの里のような施設が重要になってくると思います。余命宣告を受けた方だけでなく、おひとり様やDINKS、お子さんがいても絶対に迷惑をかけたくないという方もいらっしゃいます。そういういろいろな境遇の方がほほえみの里のような施設で出会って交流することで、さらにいい人生が全うできるんじゃないかと思います。このような施設の門戸がもっといろいろな人に対して開かれていくといいですね。ところで、音無さん演じるけい子さんのセリフに「本当の遺言はお金じゃなくて心を託すもの」というのがあって、仕事柄気になったのですが……。音無さんは、このセリフからどんなことを感じられましたか。

音無:そうですね。お金は大事で外せないものですが、やはり、人間は心を託したいものだと思うんです。残す物が何もないとしても、大切な人には、自分の思いをしっかり伝えて死にたいですよね。私が演じたけい子さんは、愛する人を次々と失うつらい人生を送ってきました。親はなく、結婚したと思えば夫は亡くなり、引き取って女手一つで育てた継子も罪を犯して収監され、疎遠になってしまった。それでも、継子には掛け値なしに本物の愛情を注いできたわけだから、彼にそのことを理解してほしいという思いがすごく強かったと思います。遺言書に書くような財産は少ししかないけれど、自分の思いを分かってほしいというセリフだったのではないでしょうか。

小谷:遺言書というのは、法的には自分の意思を実現するための手段であるわけですが、それは結果論に過ぎないと思うんです。音無さんのおっしゃるように自分の思いを伝えることは大変重要で、生きているうちに伝えておくのが一番いいのですが、実際にはそうならないケースが多いと思います。遺言には「付言事項」という遺言者の思いや家族へのメッセージなどを綴る項目があって、遺言書をお書きになるお客さまには、必ずお書きになるようお勧めしています。ご家族への思いをちゃんと書いておくことは大事で、文章にする意味は予想外に大きいのです。私どもでは遺言の執行業務の中で、相続人の方々の前で遺言書を読み上げることになります。その時、意に反する内容に感情的になる方も少なくないのですが、付言事項で遺産分配の理由や個々の相続人への思いなどに言及していると、相続人の方の納得感が高まることを実感しています。

※遺言の内容を実現する手続きをすること

音無:分かるような気がします。実は私、去年が古希だったんです。まだまだやっていけると思う半面、この3年ほどは、今生きているのは当たり前のことではなく、世の中いつ何が起こるか分からないし、明日死んでもおかしくないんだと感じるようになりました。こうして毎日新しい朝を迎えられるのは奇跡であり、幸せなことなんだと思いながら、感謝の気持ちを持って暮らしています。

小谷:2019年末に、ご主人である俳優の村井國夫さんが心筋梗塞で舞台を降板されました。今年の正月には新型コロナウイルスの感染症も発症されて。それまでがお元気そのものだったので、さぞやご心配だったのではありませんか。

音無:本当に大変でした。村井は「獣唄」という素晴らしい舞台に出させていただいていて、心筋梗塞になったのは、その公演中のことでした。私の目の前での出来事だったので救急車をすぐに呼べたのですが、どこかのホテルの部屋に一人でいたり、車の運転中だったりしたら、手遅れになっていたかもしれません。結果的に助かったので、村井には「あなたは生きなければいけない人なのよ」と伝えました。彼も同じように感じていたようです。その後は順調に回復していたのですが、今年の元旦にはコロナ感染症で高熱が出て。発熱外来に電話をしても全然つながらず、やっとつながっても、別のところに電話してくださいと言われてしまって、困り果てました。熱が40度近くなってもう待てないとなったとき、心筋梗塞でお世話になった病院に連絡したところ、すぐに検査をしてくださったんです。おかげで1月6日には入院することができました。本当に幸運だったとしか言いようがないのですが、村井は「僕は流行り病にはすぐかかる。流行に乗る男だから」などとうそぶいていて、呆れました。今だから笑い話になりますけれど。

小谷:お二人は歳月を重ねても本当に仲のいい、理想のご夫婦ですね。テレビのインタビュー番組にご夫婦で出演された際に、村井さんが以前に音無さんから渡された手紙やメモを全部保管してあるとおっしゃっていて驚いたことがあります。

音無:あのとき、昔の手紙を見せられたのはサプライズでしたね。半面、自分でもなかなかいいこと書いているな、と思って(笑)。それこそ遺言書じゃないけれど、残しておくのもいいなと思いました。今は村井ともLINEでのやり取りが増えて、正月に彼が入院した際も、お見舞いに行けないので毎日LINEで会話していました。1週間ほど容体が悪化していた時期があって、そのときに村井が遺言のようなLINEを送ってきたんです。「僕の人生で君に会えたことが一番の幸運だった」という内容でした。こういう大事なことは、手紙で伝えてほしいですよね(笑)。今のような世の中だから、自筆の手紙を残すほど心のこもったことはないと思います。手書きの文字には、自分のその時々の心情や心の持ち方が表れるじゃないですか。手紙の力ってすごいな、と思いますね。

小谷:素晴らしいお話ですね。相続の仕事で相続人の皆さまからお話を伺うケースでは、故人から伝えられたという内容の解釈が、皆さん、それぞれ異なっていることがあります。それは、話を聞く側は、それぞれの立場で話を受け取ることに起因しています。相続の場には言い置いたご本人がいないため確認することができません。ご自分がいないときにも分かるようにするためには、やはり、文章にしておくことをお勧めしています。先ほどお話しした遺言書の付言事項を書かれる際には、皆さん、1週間くらい熟考された上で、今までを振り返って大事な言葉を選んでお書きになります。ですから言葉に重みがあって、残された家族に対して説得力を持つのではないでしょうか。 ところで、音無さんは村井さんだけでなく、娘さん、息子さんも含め、ご一家での結束力が強いというイメージがあります。ご著書の中でも「チームのよう」と書いておられます。

音無:いろいろなご家庭がある中で、我が家は比較的平穏だと思います。とはいえ、今のように家族がまとまったのにはきっかけがあって、それが東日本大震災です。被災者のために私たちができることはないかという話になって、「音無美紀子の歌声喫茶」という出張公演を家族で始めました。どこかの被災地にお見舞いに行く際も4人一緒、皆で一つの目的に向かっていくことで家族の絆が深まった面はありますね。こうした活動を通して、いろいろなご家族の、あたかもドラマのような話に触れました。それで自分たちが恵まれていることを実感したり、時には反省させられたりして、いろいろ考えさせられました。そうして10年経った今、うちの家族は結構「密」です(笑)。

小谷:ご家族でのコミュニケーションがしっかり取れているのでしょうね。相続の現場を見ていると、故人が生きていたときからのいろいろな思いがご家族にあって、その思いが相続をきっかけに表出するケースが多いんですね。ちょっとした誤解や勘違いから話がこじれてしまうと、私どもがいくら「遺言書を作られたときはこういうお気持ちだったのですよ」とご説明しても、耳を貸していただけないことがあります。ご家族間のコミュニケーションが十分でなかったということなのでしょうが、私どもとしては一番つらい場面ですね。

音無:人間、全てが美しいわけではありませんものね。

小谷:おっしゃる通りです。そういう事態を回避するために、最近よくお話ししているのが親子の「二人三脚」が大事だということです。親は子どもに迷惑をかけたくない、子どもも親の生活にあまり干渉したくないという配慮があるわけですが、そこは親子であっても、ある程度は踏み込まないと、お互いの気持ちの大事な部分がつながらないことがあるんですね。例えば、親がなぜ今の家を買ったのか知らないお子さんが多いんです。それを知っているか知らないかで、家に対しての思い入れも違いますし、遺産分割の際の配慮も違ってきます。音無さんのように親子で一緒に住んでいればいろいろな話をする機会があると思うのですが、今は離れて住んでいる親子も多く、そのような場合、親の方から元気なうちに子どもとコミュニケーションを取りいろいろと伝えておくことを心がけてもいいかもしれません。

音無:一番悲しいのは、親御さんが亡くなり財産をめぐって“争続”になって、兄弟姉妹が断絶してしまうことですね。ドラマでよくありますが、現実の世界でも結構多いと聞きます。それはすごく残念なことだと思うんですね。ですから、『ぬくもりの内側』の中で島田順司さんが演じた森本功さんが余命宣告を受けた後、ご自分の会社や財産を全て清算して、すっきりと死にたいと考えたお気持ちはよく分かります。

小谷:そうですね。私は遺言書を書かれる方に必ずお聞きするのが「あなたの一番大切なものは何ですか? この遺産分配で一番大切なものが守れますか?」ということです。多くの方は「家族が一番大事」とおっしゃいます。そうして、本当にこの分配の仕方で一番大事な家族を守れるのかを見直す流れになっていくのです。今のお話のような兄弟姉妹の断絶は、親にとっても悲し過ぎる結末ですからね。

音無:私も二人の子どもに何を望むかと言えば、親がいなくなってもずっと仲のいい姉弟でいてほしいということ。子どもたちの幸せ、それが全てです。ですから、姉の麻友美には「健太郎を可愛がってくれる結婚相手を見付けてね」と、弟のほうには「お姉ちゃんを慕ってくれるお嫁さんにしてよ」といつも言っています。

小谷:いずれ自分たちのほうが先にと思うと、そこは気になりますね。さて、音無さんは当社の『こころを託す物語』の動画もご覧いただいたと伺っていますが、特に記憶に残ったエピソードはありましたか。

音無:「あら、丘みつ子さんだ!」とか、「岡まゆみさんも出ていらっしゃる!」とか、そんなところばかり見ていました(笑)。とはいえ、小谷さんがおっしゃったように、遺言書を開くときには本人がいないわけですから、次世代にしっかり思いを残すことがとても大切だなと思いました。親の立場からすると、無責任ではいけない、身の回りをきちんと整理して、禍根を残さず逝くのが義務のような気がしてきましたね。

小谷:そうですね。私どもの仕事はまさにそのお手伝いをすることになりますが。その際に、私どもにはフィデューシャリー・デューティー(FD)という受託者としての責任があります、要は「お客さま本位のサービスをしましょう」ということで、自分の利益よりも相手の利益を考えることを示しています。特に相続はお客さまの人生に携わることになりますので、まさにFDの理念を第一に考えていかないと成り立ちません。本日いろいろお話しさせていただいて、信託銀行に対するイメージが変わったりしましたか。

音無:ええ、変わったというより、どんなお仕事をされているのかがよく分かりました。相続に関していろいろなことを整理して方向性を提案してくださったり、全体の資産の管理をしてくださったりして、信頼できる機関であることをもっと世の中の人が知って、託すようになったら、物事がうまくいくような気がします。

Plofile
女優
音無美紀子(おとなし みきこ)
1949年、東京都出身。頌栄女子学院高校在学中に劇団若草に入団。71年、TBS朝の連続テレビ小説「お登勢」で主役に抜擢される。以降、数多くのドラマや映画、舞台に出演。2019年には「風を打つ」の演技で文化庁芸術祭賞演劇部門優秀賞を受賞。日本舞踊は藤間流の名取で、他にも茶道、華道、モダンダンス、ギター、料理と多趣味。配偶者は俳優の村井國夫、長女・村井麻友美、長男・村井健太郎も含め、芸能一家として知られる。
三菱UFJ信託銀行 MUFG相続研究所所長
小谷 亨一(こたに こういち)
2002年、三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社。12年にリテール受託業務部長に就任し、遺言の企画・審査・執行業務などに従事する。「資産の悩みに最も寄り添える存在」を目指しており、現在は、資産運用や資産承継のエキスパートとしてセミナー講師を務める傍ら、メディアなどでも幅広く活躍。自身の体験を踏まえた分かりやすい解説に定評がある。1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士。

MUFG相続研究所 人生100年時代における社会課題(認知機能低下時の資産管理や資産承継等)の領域に関し、MUFGの蓄積してきた知見を生かしながら調査・研究を行う。2020年2月設立。 ※MUFG相続研究所は、三菱UFJ信託銀行が、資産管理・資産承継に関する調査・研究・レポート作成等の業務を対外的に行う際の呼称です。



田中壱征監督から

個人的には今の終末医療の在り方に納得がいかない部分があり、愛のある全うな人生の最期を過ごしてほしいという思いから、この映画を製作しました。映画の中には余命宣告を受けた人物が3人登場するのですが、その中の1人が音無さん演じる林けい子です。音無さんがご出演なさるエピソード2には、映画の中で唯一、故人と会話をするシーンが出てきます。心温まるシーンになっていると思うので、注目して見ていただけたらと思います。詳しくは言えませんが、そこでの音無さんのセリフも素晴らしいんです。音無さんと小谷さんの対談に出てきた、自分が不在になる相続の場を想定し、家族への思いを伝えるという話にもつながっていくように思います。

映画「ぬくもりの内側」
余命を宣告された身寄りのない人を受け入れる看取り専門のホスピス「ほほえみの里」。3人の入居者のエピソードを通して、入居者に寄り添う看護師、緩和ケアの医師、地元の仲間らが、誰にも訪れる死への葛藤を乗り越え、現実に真正面から向き合うことで真のぬくもりを味わっていく様子を描く。美しい海景と人情の残る南房総、さらに国内各地やウィーン、バンコクなどでのロケも敢行。森山良子による主題歌『家族写真』が、壮大なヒューマンドラマを彩る。家族を事故で亡くし、勤務先の大病院の終末医療に限界を感じて帰郷し、ホスピスを開設する主人公の美穂役に白石美帆。他に三田佳子、音無美紀子、島田順司、渡辺裕之、野村真美、高樹澪、スギちゃんらが出演。監督・脚本は2018年にフランス政府認定フランス社会功労奨励賞文化芸術門「オフィシエ勲章」を受賞した田中壱征。2021年秋、劇場公開予定。

公式サイト:https://www.isseyfilms.com/

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