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今後の家族の財産管理を考えたとき、家族信託とは一体どういう制度なのか調べておきたいですよね。さらに、認知症対策として家族信託は有効かどうかも気になるところです。
家族信託を利用すれば、保有する現金や不動産などの財産管理を家族に託すことが可能です。認知症発症前に家族信託を契約すれば、認知症対策として十分な効果が得られます。
この記事では、認知症対策としての家族信託の仕組みやメリット、デメリット、手続きにかかる費用を解説しています。
家族信託について知ることで、漠然と感じる不安を取り除き、家族の財産管理に役立てられるでしょう。
家族信託とは
家族信託とは、親世代の判断能力があるうちに、家族へ財産の管理権を譲ることです。
認知症発症後では、銀行から預金が引き出しできなくなったり、不動産の管理や売却ができなくなったりと、資産凍結の恐れや家族信託の契約ができなくなる可能性があります。
このような事態を避けるため、認知症対策として家族信託の仕組みを理解して正しく運用していきましょう。
下記で家族信託の仕組みを詳しく説明します。
家族信託の仕組み
家族信託は、自分が信頼できる家族に財産の管理権を託すことができる制度です。
また、利益を受け取る人(受益者)を複数人定めることができ、財産を所有する本人を受益者に指定することもできます。さらに子や孫だけでなく、受益者として会社を選ぶことも可能です。
ただし、認知症発症後など行為能力が喪失すると、家族信託の契約ができないことになります。
家族信託契約の判断基準
家族信託契約は、契約する人の判断力が認められれば契約できます。公証役場の公証人の立ち会いのもと、以下の項目を中心に確認がなされます。
- 自分の決めた目的に沿った契約内容について把握している受託者(財産の管理を託される人)と打ち合わせできるか
- 公証人が契約の内容を質問した時に意思表示できるか
- 銀行窓口で預金を信託用の口座に移す手続きができるか
- 不動産が信託財産にあるときは司法書士による本人確認に答えられるか
契約の際に以上の項目を満たしていれば、行為能力があり、認知症でも家族信託契約ができる可能性があると考えられます。
家族信託契約にかかる費用
家族信託を専門家に委託する場合の費用相場は、50万〜100万円程度です。
費用の内訳は、主に以下の4つが挙げられます。
- 専門家への相談費用
- 公正証書作成費用
- 公正証書作成手数料
- 登録免許税(信託財産に不動産を含む場合)
公正証書作成費用は、専門家が公正証書を作成するために支払う費用で、公正証書作成手数料は公正証書作成の手数料として公証人役場へ支払う費用となっています。
家族信託は個人でも契約できますが、将来的なトラブルを防ぐためにも専門家に相談したほうがよいでしょう。
成年後見制度との違い
家族信託と似ている制度に成年後見制度があります。家族信託とは異なり、判断能力が衰えたあとでも利用することが可能です。認知症や病気などで判断能力が低下した人を支援するための制度と言えます。
後見人が本人(被後見人)に代わり、財産の管理や各種料金の支払い、介護福祉サービスの利用契約を行うことが可能です。成年後見制度を利用する際は、家庭裁判所への申し立てが必要となります。
家族信託の手続き手順
家族信託を開始するまでの大まかな流れは以下のとおりです。
- 司法書士や弁護士など専門家と面談を行う
- 財産管理方法、承継方法など信託目的の検討
- 信託目的の確認や受託者・期間などを決める
- 家族信託契約書の作成
- 必要書類の用意、各種調査(本人確認書類、受託者と受益者の印鑑証明など)
- 公証役場にて家族信託契約書を公正証書にする
- 家族信託の利用開始(名義変更の登記申請、信託口座の開設)
契約から家族信託を開始するまでの期間は、約2ヶ月ほどです。
戸籍や財産に関する書類の用意、状況確認などが必要になるため、早めの準備が大切になります。家族みんなで協力して進めましょう。
認知症対策としての家族信託のメリット
認知症対策として効力を発揮する家族信託ですが、どのようなメリットがあるのでしょうか。
- 親世代(委託者)が認知症等になっても資産が凍結されない
- 委託者の思い通りの財産管理承継を実現できる
- 契約内容に沿った柔軟な財産管理ができる
上記のメリットを見ると、親世代も管理を任される家族も安心して利用できる制度と言えますね。
3つの内容を具体的に説明します。
メリット1:親世代(委託者)が認知症等になっても資産が凍結されない
親世代が認知症や病気などで判断能力を失うと、資産が凍結されてしまい、介護費用や医療費の捻出に苦労するケースがあります。
しかし、認知症発症前に家族信託をした信託財産については、受託者に財産が移転することから、家族信託口座で財産の管理や引き出しができるようになり、資産凍結することなく運用ができるのです。
メリット2:委託者の思い通りの財産管理承継を実現できる
家族信託では、あらかじめ委託者の死後の財産承継先や信託後の財産管理の方法を決めておくことが可能です。
承継先の範囲は、1世代のみでなく、2世代、3世代先まで指定することができます。そのため、家族経営の会社を子から孫へ継がせるというような、未来の相続にも対応することができるという点は理解しておきましょう。
メリット3:柔軟な財産管理ができる
成年後見制度において、不動産の売買は後見人の判断だけでは決められません。しかし、家族信託では、契約時点で信託財産の不動産管理、売買について決めておくことで、不動産の管理や売却を行えます。
事前に契約内容を家族で話し合って決めておくことで、認知症による行為能力喪失後でも本人の希望に沿った財産管理ができます。
認知症対策としての家族信託のデメリット
家族の口座凍結が防げるメリットがある一方で、家族信託のデメリットはどのようなものが挙げられるのでしょうか。
- 判断能力が低下したあとは契約できない
- 受託者は契約内容を柔軟に変更できない
- 信託財産以外の契約はできない
認知症対策として検討したい制度なので、認知症発症後、判断能力が落ちてしまうと契約が難しいようですね。
下記で3つの内容を詳しく解説します。
デメリット1:判断能力が低下したあとは契約できない
家族信託では、契約を行う当事者の意思が明確であることが重要になります。そのため、認知症や病気などで判断能力が下がった状態では契約することができません。
家族信託を利用する際は、早めの判断が大切です。
デメリット2:受託者は契約内容を柔軟に変更できない
家族信託では、受託者や財産は、委託者である故人の遺志に従う義務があります。途中で契約内容を変更することができず、契約に沿った財産管理が大変になる可能性がある点は、デメリットと言えるでしょう。
契約内容に拘束されて大変になるケースとしては、受託者の周囲の環境が契約を結んだ当時と大きく変わったケースなどが考えられます。仮に、受託者が委託者である故人の財産管理が難しくなった場合でも、受託者は契約内容に沿った財産管理をおこなわなければなりません。
受託者が家族信託の契約に沿った財産管理に長期間縛られる点は理解しておきましょう。
デメリット3:信託可能財産以外の契約はできない
家族信託では、個人の年金受給権や福祉施設の入退所の手続き、医療の契約などの管理をすることができません。
委託者の身の回りに関する契約や信託財産以外のものに関しては、成年後見制度を利用しましょう。
しかし、これらのデメリットも家族のサポートがあれば、乗り越えられそうですね。のちに財産を承継する人のことを見据えた契約内容を考えましょう。
まとめ
認知症対策としての家族信託のメリットをおさらいしましょう。
- 親世代(委託者)が認知症等になっても資産が凍結されない
- 委託者の思い通りの財産管理承継を実現できる
- 契約内容に沿った柔軟な財産管理ができる
老後の財産管理はさまざまな方法があります。そのなかで、家族信託のメリットとデメリットを踏まえ、どのやり方がベストなのか家族で話し合う時間を持つことが大切です。
全員が納得した上で、大切な家族の財産管理方法を決めましょう。