親が高齢になってくると、認知症と診断されるケースも少なくありません。最初は物忘れがひどい程度ですが、やがてお金の管理もままならなくなり、さまざまなトラブルの原因になることも。

前もって親のお金の管理方法を整理しておけば、親のお金にまつわるさまざまなトラブルを予防できるでしょう。

この記事では、認知症の親によるお金のトラブル事例や、対処法、親のお金を管理するうえでの注意点を紹介します。この記事を参考にして、親が認知症になった際のお金のトラブルを避ける準備をしましょう。

認知症の親のよくあるお金のトラブル

認知症の親のよくあるお金のトラブル

浪費やクレジットカードなど重要なものの紛失、盗みの疑いをかけられるなど、認知症の親にまつわるお金のトラブルはさまざまです。家族が代理で、管理しようにも、銀行口座の預金などを引き出せなくなってしまうケースもあります。

まずは、認知症の親に関連するよくあるお金のトラブルを確認しましょう。

金銭感覚を失い浪費する

認知症によって正しい金銭感覚を失い、高額なものを購入してしまう、もしくは生活必需品でも購入したこと自体をわすれて何度も買い物をしてしまうなどのケースがあります。

また、リスクの高い金融商品へ投資をおこない大きな損失を出してしまうなどの事例も見られるため、注意が必要です。

印鑑やクレジットカードの紛失

認知症の人は、大きな買い物や銀行などの手続きにおいて必要な印鑑やクレジットカードといった重要な持ち物を紛失する事例も見られます。

印鑑やクレジットカードを紛失した際の問題は、本人がお金を引き出せなくなったり、買い物ができなくなったりするだけではありません。お金が引き出せないことを銀行員に詰め寄るなど、さらに深刻なトラブルを招く可能性もあるのです。

認知症の人に対しては、お金の管理だけでなく、印鑑やクレジットカードなどの物の管理も重要となることが分かります。

盗みの疑いをかけられる

認知症になった親が、お金への執着が強くなったとの相談を医者などが受ける事例は少なくありません。

お金への執着が強くなった状態では、財布を持っていないことに不安を感じ、同居している家族がお金を盗んだと思い込む、物盗られ妄想を引き起こす可能性もあるでしょう。盗みの妄想については、財産が減ってきたり、体調を崩したりといった不安感が原因の可能性があります。

財布を盗んだと疑われた場合は、落ち着いて話しを聞いたうえで、別の話題に切り替えるなど工夫するとよいでしょう。

銀行口座、証券口座からお金を引き出せない

近年は個人情報の保護の厳格化などを背景に、本人以外が銀行口座や証券口座から資金を引き出すのが難しくなりました。

まだ症状が軽いうちに、このあと紹介する成年後見制度などを活用してお金の管理ができる状態にしておかなければ、当面の間の親の生活費を家族が立て替えていかざるをえない状況に陥るリスクもあるかもしれません。

認知症の親のお金の管理方法とは?

認知症の親のお金の管理方法とは?

認知症の親にまつわるお金のトラブルを防ぐためには、成年後見制度を利用して家族がお金を管理できる状態にしておくのが有効です。

そのほか、できる限り買い物や預金の引き出しには同行したり、信託サービスを利用したりなど対策をとることでトラブルを回避することもできるでしょう。

ここでは、認知症の親のお金の管理方法について紹介します。

成年後見制度を利用する

成年後見制度は認知症により判断能力に不安のある親の代わりに、お金の管理を支援する制度です。

大きく分けて次の2つの制度が存在します。

  • 法定後見制度:本人の判断能力がなくなったのちに、医者の診断書をもとに家庭裁判所が判断して、家族などに管理を認める制度(管理する人は家庭裁判所が選ぶ)
  • 任意後見制度:本人がまだ判断能力があるうちに、本人とともに家庭裁判所に出向き、判断能力低下後に財産管理に関する事柄を代理で管理する人を定める制度

認知症が進み本人の判断能力が鈍ったのちは法定後見制度しか利用できません。この制度の場合は医師の診断書が必要であることや、管理者を任意で選べないなどの制約があります。

また、サポートの範囲も裁判所が決めるため、家族が望む形でお金の管理をできるようになる保証もありません。

そのため、できるだけ本人の判断能力があるうちに、任意後見制度を活用して家族が代理でお金を管理できる状況を整えておくのがよいでしょう。

買い物や預金の引き出しなどに同行する

本人の気分をあまり害さずにスムーズに実践できる対策が、買い物や預金の引き出しの際に同行する方法です。少なくとも不要な買い物をして浪費してしまったり、預金の引き出し方を忘れてトラブルに発展するリスクは防げることが期待されます。

効果的ではありますが、親が一人暮らしの場合などは取りづらい対策です。同居していても、ほかの家族が仕事などで忙しければ、常に同行するというのは難しいでしょう。

資産承継・資産管理の信託サービスを利用する

信託銀行などは、認知症の親の資産を家族が承継・管理できる信託サービスを提供しています。活用すれば、家族がお金を管理することや、本人の引き出しを制限することなどが可能です。

また、親にもしものことがあったときの相続手続きも、事前受取人(受益者)を決めることで、すぐに資金を受け取ることが可能になります。葬儀費用などにも充当できるので安心です。

この制度は、親自身がまだ症状が軽いうちに、自分の認知症を自覚し、信託契約を結ぶことに合意しなければなりません。早いうちから丁寧に話し合っておきましょう。

認知症の親のお金の管理の注意点

認知症の親のお金の管理の注意点

認知症になったからといって、無理やり親のお金の管理を進めたり、あまりに自尊心を傷つけるやり方を選んだりしてしまうと、かえって深刻なトラブルに発展するリスクもあります。

詳細な記録を残す、資産の全体像を把握しておく、少額の金銭管理は本人に任せるといった対策をとることで、スムーズに認知症になった親のお金の管理をおこなえるようにしていきましょう。

詳細な記録を残す

本人からお金を盗まれたと疑われることなどのないように、使ったお金についてしっかりと記録を残しておくことが大切です。本人からお金の使い道などを聞かれたときに、すぐに答えられるようにしておきましょう。

早めに資産の全体像を把握しておく

本人しか知らない口座やクレジットカード、資産などがあると、家族が代わりにお金の管理をスムーズにおこなうのが難しくなります。

まだ本人の判断能力があるうちに、親の資産の全体像を把握しておき、もれなく管理ができる状態にしておくことが大切です。

少額の金銭管理は当面任せる

親の自尊心を過度に傷つけないためには、判断能力がある程度残っているうちは、別の口座などを作って、家計に打撃にならない程度の金額を本人に自由に管理させるのも1つです。

自尊心を傷つけないやり方でお金を管理することで、親から反発を受けてトラブルに発展するリスクを予防できるでしょう。

まとめ

親自身の浪費や、家族がお金を引き出せなくなるなど、認知症の親にまつわる金銭トラブルは珍しくありません。そのようなトラブルを防ぐためには、親の症状が軽いうちから、成年後見制度などを利用して、スムーズに家族が親のお金の管理をできる状態にしておきましょう。

親の反発によるトラブルを招かないためにも、早いうちから親と話し合っておき、また過度に自尊心を傷つけないよう工夫して管理することも重要です。

早いうちにお金について、話し合っておくことで親自身も安心してシニアライフを送ることができるでしょう。